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アレクサンダー・マックイーンの死 [ファッション]



ふぁっちょん幻論第57回

外電によれば英国のデザイナー、アレクサンダー・マックイーンがロンドンの自宅で
亡くなったそうです。世界でも指折りの非凡なクリエーターであった若冠40歳の孤独な死は、惜しみても余りあるものといえましょう。

ロンドンのセントマーチーン・アカデミーを卒業して1996年にロンドン・コレに参加し、その後まもなくジバンシーのデザイナーとしてめざましい活躍を続けた彼は、2001年からはみずからのブランドでパリとミラノのコレクションでメンズとウイメンズの作品を発表し、シーズンごとに高い評価を集めてきました。

アレクサンダー・マックイーンは、つねにファッションの領域を拡大し、前人未到の新しい美を追求しようとする強烈な意欲と冒険精神の持ち主でした。たとえばロンドンのストリート系雑誌「デイズド&コンヒューズド」の依頼に応じてコムデギャルソンなどとともに重度の身体障害者をモデルにした作品を発表したり、03春夏パリコレでは義足のモデルを起用するなど、健常・障碍の区分を超えたユニバーサルデザインに対して先進的な取り組みをみせていました。彼は、私たちが美しいとみなす世界の外側に、もうひとつの美しさを見出すことができた人でした。

けれどもファッションに対してきわめて前衛的な考え方を持ち、その理想を追求しようとすればするほど、バブル崩壊後の世界不況の嵐は、彼のファッションポリシーと生き方を苦難にみちたものに変えていったに違いありません。
他のデザイナーたちと共に、一方では着易いリアルクローズを提案し、プーマ社と提携するなど「食うためのデザイン」を推進すればするほど、「この世にあらざる理想のデザイン」を夢見る彼の良心はするどい痛みを覚えたに違いありません。

彼が死の直前に製作し、私たちへの最期の贈り物となったのは201年秋冬物のミラノコレクションでしたが、そこで登場するメンズウエアたちは、まったくコンセプトの異なる2種類のグループによって暴力的に引き裂かれているようです。

一方における「万人に愛されるリアルクローズ」と、まるでアフガニスタンのアルカイダへの孤独なオマージュのような、「異様でアバンギャルドなシュールレアリスムウエア」――。おそらく彼の内面におけるこの2つのベクトルの存在と内部矛盾、そしてその不可避的な対立と分裂の激化こそが、彼の早すぎる自死の引き金となったのではないでしょうか。

今宵私は、マックイーンと同じような悩みをかかえて激しく苦悩しているであろう山本耀司氏や川久保玲氏、そのほか数多くのクリエーターの健闘と自愛を切に祈りたいと思います。


死んでしまえばすべて終わりだよ山本耀司 茫洋

生きておればさらなる高みに登れたが足元の岩ぐらり崩れて 茫洋

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