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「谷崎潤一郎全集第13巻」を読んで [読書]

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照る日曇る日第826回


「潤一郎犯罪小説集」(「日本におけるクリツプン事件」、「或る罪の動機」「黒白」)、「卍(まんじ」を中心に、芥川龍之介の思い出噺などを交えたコンピレーションである。

 谷崎の小説では、男は女への奉仕者であり、女たちはいきいきと自由奔放に生きていて、それを読んだ男たちに恍惚と不安の二つの感情を存分に味あわせてくれる。

「黒白」におけるドイツ人のような西洋風の謎の日本人娼婦は、谷崎を思わせる主人公の小説家を思うさま引きずり回し、その結果主人公は殺人犯人の濡れ衣を着せられ、官憲に拷問までされるに至るが、それでもおそらく彼女の面影をどこかで追い求めているのだろう。

妻の心と肉体を同性の美女に奪われた「卍」の亭主も哀れな男で、理知と常識を備えたインテリでありながら、愛する妻を自由放任にまかせたがゆえに、ずるずるべったりとのっぴきならぬ修羅場に巻き込まれ、とうとう命まで落としてしまう。

 哀れといえば哀れ、愚かといえば愚かだが、その人世最後のいっときに、自分の愛した二人の女と一緒に毒薬を飲んだ瞬間の自己放下の快感を思うと、羨ましいと思わないでもない。

 本巻では「卍」の標準語版初稿の前半と関西弁の本番改定版の2種を読むことができるが、後者のカタリがいかに小説の内容に合致しているかを読者は痛感することだろう。

 いずれにしても私たちは、いきなり希代のストーリーテラーに拉致され、その物語世界のめくるめく深淵と陶酔に身を任せるほかないのである。


「ケータイくらい充電しとけ」と言い放つそれでもお前は福祉の職員か 蝶人

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