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林望謹訳「平家物語一」を読んで [読書]

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照る日曇る日第834回

 前著「源氏物語」の好評をうけて、いつのまにか「平家物語」の現代語訳が出ていたので一読しましたが、やはりこの人のは非常に分かりやすく読みやすい。

 本巻では巻第一から第三までを扱っているが、なんというても冒頭の「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰のことはりをあらはす」が源氏物語枕草子、徒然草、方丈記、芭蕉と並ぶ名文句でこれあればこそ、万巻の書物に抜きんでることができたのに違いないですな。

 おごれる平家、なかんずく頭領清盛の人もなげな横暴と、長男重盛の知的な沈着冷静とがことごとに対比され、あほばか清盛がもっと大人しくして野望を抑えていたら、あのように無惨に源氏に滅ぼされることもなかったろう、と言わんばかりの書き方であるが、さあどうであったろうかなあ。

「巻一」では早くも平家打倒を企む後白河院の意向を先取した鹿谷の陰謀が暴かれ、「巻二」では、首謀者一味の丹波少将所成経、平判官康頼入道、俊寛僧都の喜界が島流しが描かれている。

 流された彼らは、なんとか放免されて都に帰還しようと、「全島をくまなく歩いて熊野三所権現の再現を図った」と書かれているが、最近の研究現地調査でそれがその通りであったことが明らかにされたのは、この平家が単なる空想的なものがたりではなかったことを物語っているんだね。

「巻三」では重盛のとりなしで清盛は二人を赦免する。が、なぜか俊寛のみは取り残された。その俊寛を召使いの有王という少年が訪ねてきた、という叙述が本物であると信じられるのも、少年の問いかけに対して俊寛が、「この島には喰い物などないので、山に登って硫黄という物を掘り、九州から通ってくる商人に売ってこれを食い物に変えた」という証言を記録しているからにほかならない。

 平家は単なる文芸書ではなく、貴重な歴史書でもあるんであるんである。

  年の瀬に読みたき記事はただひとつ吉田秀和のお薦めCD 蝶人

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