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夢は第2の人生である 第9回 [夢]

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西暦2013年長月蝶人酔生夢死幾百夜


詩人の鈴木志郎康さんから、「君の詩はポッドがあるね」と言われたので私は喜んだが、よく考えてみるとポッドの意味が分からない。Podを辞書で引いてみると、「(エンドウなどの)さや」と出ていたので、なるほど俺は突然ポット弾ける「枝豆系」の人間なのだと得心がいった。9/30

私は5m走の世界チャンピオンだったが、ある大会で100mの世界チャンピオンが私を見ながら嘲笑っているような気がしたので、彼の所まで行って「フライ級でもヘビー級でもチャンピオンに違いはないよ。なんなら君と5m競争してみようか」と言うと黙って向こうへ行ってしまった。13/9/29

デザイナーのオネちゃんが、またぼやいている。「封筒を制作したが規格より大きすぎたうえに、料金別納と印刷しなかったので、失敗だった。どうしたものか、困った困った」とぼやいている。どうしようもないじゃないか。13/9/29

久しぶりに乗った満員電車の中で、私のまん前にいたのはブロンドの若い娘だった。どんどん混雑してくる電車の中で、彼女は恐らく意図的に私の身体の中心部に自分の下半身を擦りこむように身を寄せてくるので、私はもうどうにも我慢できずなくなってしまった。13/9/28

京都の株屋に勤めていたおじいちゃんが、僕を新京極の鰻屋さんに連れて行ってくれました。僕の顔を見ると、おじいちゃんは大喜びして僕の手を両手で握りしめ、「おお、ようきたなあ」とうれしそうに笑いました。そのとき僕は、ああこの人が僕の本当のおじいちゃんなんだ、と分かりました。9/27

朝ポストをみると、頼んだ覚えもないのに「大日本短歌新聞」が入っていた。ニューヨークタイムズの日曜版と同じくらいの分量で恐らく100頁近くあるだろう。どんどん読んで行くと読むはじから文字が消えて行くので、私はもう必死になって読んで読んで読みまくったが、何も覚えていない。後には真っ白な紙だけが残った。9/27

ともかく雑誌がまるで売れないので、われわれはソホロやカルカ剤の販売で食いつないだ。そのうちにやけくそになった男たちが、大酒をくらって、「くそたれ女でも買いに行こう」と叫んで部屋を飛び出して行ったが、私はカルカ剤の製造に勤しんでいた。

トイレから出て左側に歩いて行くと、いつも夢に出てくるお馴染みの場所に出た。ここは町と丘と駅と人と樹木と民家が混然一体になっている懐かしい場所だが、いきなり神話の中の神社の神体がむきだしで飾ってあったので驚いた。9/26

劇場を出てから外を歩いていると知り合いが、「佐々木という映画評論家が死んだそうだ」という。佐々木って誰だと不審に思って彼の後についていくとトイレに入ったので、並んで小便をしようとしたが、便器のすぐそばが民家になっていて眠っている人の顔が見えたんでおしっこはやめた。9/26

久しぶりに試写会に招待されて銀座の大劇場に行き、1階の空いた席に座っていると、いきなりそのフロア全体が客を乗せたまま猛烈な勢いで高速回転しながら上へ上へと螺旋状に舞い上がる。私は振り落とされないように、懸命に座席にしがみついていた。9/26

妹は生まれながらにして治療不可能な難病に侵されていたが、この世のものとも思えないほど美しかった。男たちは彼女が若くして死ぬことが運命づけられていると知りつつさながら、炎の周囲に集まる蛾のように狂ったように飛び回りながら、激しく身を焦がすのだった。9/24

沖合からやってきたダフニスとクロエが、波打ち際で足を取られて何度も転んだ。彼らなりに雰囲気づくりに貢献してくれたのに、朝ごはんも出ないとは気の毒だ。誰かにクレームをつけようと思うのだが、私にはその誰かが分からない。9/22

小学館の梅沢さんが児童教育についての素晴らしいペスタロッチ的箴言を吐いておられると知って、私も負けじと自分流の名言を吐こうと唸っているうちに、朝日が差してきたのだった。9/21

さる有名編集者の集いになぜか招かれた私は、家を慌てて出てきたためにズボンをはかず、次男の健君から父の日に贈られた真っ赤なパンツいっちょうで駆けつけた。周囲の射るような視線を浴びて赤面し、立ち往生していると、いつのまにか飛蝶のように現れた健君が私をひょいと横抱きにして裏山に隠してくれた。9/21

いつものように新宿にある学校へ行こうと家を出たが、その途中、法政大学の近所の商業施設の中で道が分からなくなってしまった。階段を息せき切って上り下りしているうちに時間がどんどん過ぎてゆく。ピザ屋のおやじに時間を聞いたら3時前という。それならもう授業は終わるころだ。13/9/20

私はアフリカ戦線の女性指揮官が運転するサイドカーに添乗して、猛スピードで走りまわっていた。黒衣のレザーに身を包み細身の鞭を握りしめた彼女は、時々私に戦況報告を求めるのだが、返事を聞いても上の空である。私は、彼女と過ごすであろう夜がだんだん怖くなってきた。9/20

東京の中央駅の近くではあるがそこだけは開発から取り残されている旧野分町電停付近はなぜだか世界中からやって来た観光客がたむろしていた。若いバックパッカーたちが数多く見受けられたので、もしかすると彼等はそこで野宿するのかもしれない。9/19

上野の黒門のあたりから本郷台を眺めていると、遥か彼方に富士の白根が望まれた。私は敵が攻めてくるまでここでゆっくり花見をしてやろうと決め込んでいた。9/18

就活用のパンフレットの製作を依頼されたので、撮影の準備をして学校に行ったのだが、約束の時間になっても人事の担当者もモデルになるはずの学生も一人も現れない。やがて夕陽が学園の校舎を真っ赤に染めると舟木一夫が現れたので驚いた。9/17

長らく企業内デザイナーとして活躍してきた人が、私に相談があるというので、岡の麓にある彼の家まで自転車を転がしながら歩いていった。独立する意思を持っているようなのでさぐりを入れたが、なかなか言い出さない。仕方なく「じゃあまたね」と言って別れたが、自転車を忘れたので戻ろうとしたが、彼の家は見つからなかった。9/15

鍵を無くしてしまった私は、仕方なく共通の鍵を持っている人たちの傍にくっついているほかなかった。その鍵が無ければ部屋にも入れず、全財産が入った荷物も開けることができないのだ。しかし彼等は芝生に座りこんだままいつまで経ってもその場を動こうとはしない。9/14

電通の杉山恒太郎氏に、「所詮僕はマーチャンダイザーにはなれてもデザイナーにはなれない人間なんだよ」と話してから建物の外に出て並木道を歩いていると、歩く傍から両側の樹木が黄色い不思議な光を放ってゆくのだった。9/14

誰か知らない人が私がfacebookに書いた記事にコメントしてくれたのだが、あまりにも文字が小さく、しかも文字列が下の罫の下に潜り込んでいるので読みとれないので、私は必死になってそこにポインターをあてて潜り込もうとしていた。

以前仲間と3人で録音した原盤の演奏が下手くそだったので、そいつを取り返して廃棄しようと保管されている蔵の前までやって来たのだが、仲間の1人が「いやあれが良かった。廃棄したくない」と言うので、争っているうちに火事で燃えてしまった。9/11

アフリカの2人の王に迎えられ、やむなく仕えた私だったが、最初の王は何者かに殺され、次の王はおのれの権力を有効に使うすべを知らない無能な人物だったので、傷心を抱えながら私は帰国の途についたのだった。9/10

友人のY君は軽井沢の山荘で隠遁生活を送っているはずだのに、だいぶ前に亡くなってしまったという。しかし最近彼から私のところには小説や詩の原稿が届いたばかりだ。もしかするとこれは霊界からの便りなのだろうか、と私は頭を抱えた。13/9/9

日曜日だけ取っている日経の歌壇を開いたら白紙だった。他の頁はちゃんと見出しも記事も写真も広告も掲載されているのに、そこだけはまっ白けのけでなにも書いてない。もしかして私の短歌が載っていたかもしれないのに。13/9/8

業績不振でリストラが相次いでいる会社の中で、「超優秀」という評価でたった一人だけ残留した私の元の上司が、殺到する業務となり響く電話の嵐のただなかで、さながら生ける聖徳太子のように鮮やかに対応しているのだった。13/9/7

超短い詩歌の形式を考えようと2晩続きで悪戦苦闘していたので殆んど眠ることができなかった。短歌俳句より短いスタイルなら5語、6語、8語もありだが、いっそ1語、2語、3語、4語という器を考えるべきなのだろう。13/9/6

燃え盛る鋼鉄製の箱に乗って宇宙から帰還した私は、予定された着陸地点から大きく逸れたマリアナ海溝の奥深く沈んで行ったにもかかわらず、奇蹟的に脱出することに成功して元の職場に戻ったのだが、周囲の連中の態度は冷たかった。13/9/5

美貌のサディストである日本ファシスト党女性党首の甘美な拷問を受けた私は、一夜にして転向してその手下となり。この国の全左翼を血祭りにあげたあとで革命的な「百貫デブ粛清作戦」の先兵となった。13/9/3

私はどういうわけかさる同僚の女性と共にカラヤンの秘書を務めていたのだが、最近マエストロが彼女に冷たくあたるので気になっていた。意地悪な彼は、重要な情報を私だけに漏らして、私よりも遥かに有能な彼女には伝えないので、いろいろな障碍が生じていた。13/9/2

新築したばかりの家に行って見ると、大勢の中国人や韓国人がリビングに座り込んでいるので、業者に文句を言ってからしばらくしてまた現地を訪れると、今度は大勢の日本人がリビングに座り込んでいる。13/9/1


     なにゆえに朝口臭が噴き上げる私も世界も腐りかけているから 蝶人


夢は第2の人生である 第8回 [夢]

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西暦2013年葉月蝶人酔生夢死幾百夜


238)その日の芝居を終えてから、私は今日で役者をやめようと決意した。ホテルを出てから不思議な場所をあちこちさまよった。ホテルに戻ると見知らぬ男が私を待っていて、きいたことのない名前の大学にきてくれといった。13/8/2

239)私は熱心な実業家ではないが、赤字を出し続けている会社をどうしても統合してくれと銀行から頼まれ、その会社の女性の社長にあの手この手で迫ったのだが、どうしても言うことを聞かないのでとうとう奥の手を使ってしまった。13/8/3

240)イケダノブオが現れたので、「お元気ですか」、「どこでどんな仕事をしているのですか」、と矢継ぎ早に質問をしたのだが、彼は夢の中であるからまともに返事しても詰まらないと思ったのか何も言わないので、なにかあったのかしらと私はあやしんだ。8/4

241)ぼつぼつとSMっぽい小説を書いていたところへ、京都からやってきた美少女のような美少年に誘惑されて本物のSM体験をしてしまったので、それを小説にして完成したところ、そいつは暫くして耐えがたい腐臭を放ち、さながら「ちりとてちん」のようになってしまったので、とうとう滑川に投げ捨てたのだった。8/7

242)ノーベル賞をもらった生物学教授の原作による映画「サクルデサイス」の邦題は、「牡牛」と「蛆」という2つの意味があるという。そこで1本は「牡牛」、もう1本は「蛆」、そして最後は「牡牛と蛆」を主人公にした同タイトルの映画を世界同時公開しているそうだが、いずれも大ヒットだそうだ。13/8/7

243)寝ている間じゅうパソコンの住宅リフォーム案内の画面がずっと目の前で展開されていて、アイテム別に診断や価格の情報が出てくるのだが、その画面全体の交通整理ができていないので、けっきょく朝までかかってさしたる情報を得ることができなかった。8/8

244)深い深い海の奥の奥の、そのまた奥に沈んでいた私は、明け方になってようやく水面に浮かび上がってきた。しかし、まだ意識は戻らない。8/9

245)戦争が近づいてきたので、各部族から逃げ出してきた牛や馬が私の広大な牧場に集まりはじめた。誰かがこれは早速国王に報告しなければとつぶやいたので、私は「その必要はない。もはや国家も国王もとろけはじめているのだから」と制した。8/10

246)こんな歳になっているのに北方領土と尖閣・竹島を奪還する愛国正義のたたかいに徴兵された私は、感染防菌のための8千本の衛生注射をされるのを断固として拒んだので、祖父と同様に牢屋にぶち込まれた。13/8/11

247)あたしは自分がいいと思うデザインしかできないから、とんがった作品をコレクションに出したんだけど、いつもと同じようにやっぱり誰からも認められなかった。だけどあたしには他のデザインなんて出来ないから、死ぬまでこのまま突っ走るわ。13/8/12

248)私の一族は夏になると都内の一流ホテルに長期滞在する。それぞれの家族が思い思いの部屋を借りてお互いに自由に行き来しながら楽しく過ごすのだが、私の唯一の楽しみは、ホテルから嫌われながら洗濯物を1階の駐車場の隅に干すことだった。

249)S君は結局末期のがんに冒されていたのだが、そんな気配は微塵もみせず、まわりに対して自然かつ平然と振舞っていたが、それは彼が深い諦めと達観の境地に達していたからだった。13/8/16

250)吉田秀和の「音楽のたのしみ」で、ディズニー映画音楽の特集をやっていた。珍しいことだと思いながら聴いていると、ミッキーマウスの音楽を名前を聞いたこともない歌手がノリノリでスウィングしている。13/8/17

251)関西の放送局のアナウンサーに対するPR活動を実施せよ、という上司の命令で大阪に派遣された私は、各局を順番に挨拶廻りしていたのだが、B局のお局と称されている鈴鹿ひろ美似のおばさんに妙に気に入られ、用が済んだというのに何回も呼びつけられて閉口しているのだった。13/8/19

252)編集長が呼んでいるので部屋に行くと、彼女は私を裸にして三つ折りに縛りあげてから全身をくまなく舐めはじめた。13/8/21

253)私たちは買い物をしながら次の店へ移動した。私と違って井出君はオシャレに目がないのでやたらたくさんの衣類を買い込む。買い物がどんどん増えて運びきれなくなると、彼はそのまま店の前に置いてまた次の店へと急ぐのだった。13/8/22

254)この近所の女子高校生殺人事件の犯人のものと思われるオートバイの撮影に成功したが、さてこれをどうしたものか。警察に届けると面倒くさいことになりはしないかと、悶々としているわたし。8/23

255)半島の南端に突き出した夏のレストランのテラスで、私は食事をしていた。鎌倉野菜は文句なしだったが、次に肉にするのか魚にするのかピザにするのか、それともパスタにするのか、私は真夏の海を見ながら思考停止状態に陥っていた。13/8/24

256)久しぶりに銀座のマガジンハウスを訪れ、ロビーに入ろうとしたら真っ黒なガスがもくもくと吹き出している。あわてて逃げだそうとしたら杉原さんが「あんなの大丈夫大丈夫、すぐに収まってもうじき赤十字の総会が始まりますよ」と教えてくれた。13/8/27

257)杉原さんは「久しぶり、お元気ですか? 私は「どんどん歩こうかい」という組織を作って大儲けしています」と自慢する。仲間のAさんは「ゴルフ大好きかい」、Bさんは旅行大好きかい」でやはり大儲けしているそうだ。8/27

258)なにやらアパレル・デザイン・コンテストなるものが1カ月に亘って開催されている。私たちが紳士婦人子供の外着中着内着の見本を昼夜兼行で制作すると、その優秀作がその都度表彰され、それらの総合得点で順位が決まるのだった。13/8/28

259)身体検査だといわれても、特に裸になるとかレントゲンを撮るとか診察があるということはなにもなくて、ただいつかどこかで撮られた写真や記録やらが目の前の画面に投影されるだけのこと。ここで私という人間が生きているのか死んでいるのかもはや誰にも分からなかった。8/30

300)独裁者となりあがった私が忠実な部下に敵の暗殺を命じると、彼は「殺人の仕事の場合は特別手当として1名千円を頂戴します」というので、私は暫く考え込んだ。殺人は月給の範囲を超える特殊な業務だというのである。13/8/31


なにゆえにラファエル前派モデルが美女なのか欝陶しい根暗女ばかりなのに 超人


夢は第2の人生である 第7回 [夢]

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西暦2013年文月蝶人酔生夢死幾百夜


220)ある村に住んでいたフランス人が、さる老人の死に際して不適切な発言をしたというので言挙げされ、酷い村八分に遭っていた。村人は彼の謝罪と訂正を我慢強く待っていたが、彼はけっしてその発言を取り消そうとはしなかった。7/1

221)2種類の文書がある。文書その1を読んでいると、それはいつのまにか文書その2の内容とダブってくる。文書その2からはじめてもまったく同じようになる。しかし2つの文書の内容は明らかに異なっているのだった。7/2

222)台所とふろ場の改装をしようということになって2つの工務店に見積もりを出させようとしたのだが、2店ともそんなことはやったことがないという。発注を受けたらただちに作業にかかって、終われば請求書を出すと言うのであきれ果てた。7/3

223)突然姿を現したのは旧友のオオブチユウタだった。彼はその隣にいるヤグチキヨコという女を紹介した。その名前に聞き覚えはなかったが、しばらくその顔を見詰めているうちに私の昔の想い人だったことにきづいたが、彼女は私のことをすっかり忘れているようだ。7/4

224)世界王族会議で某国の某皇太子が、「今日からは同じ礼服でパーティに出ることにする。その都度新規に購入していた礼服はわが国の零細非常勤講師諸君を支援するために寄付する」と力強く宣言してくれたので、私は枕に涙を流した。

225)朝眼をさますと、私は1冊の小説も書いていないのに芥川賞を受賞していた。周囲の人がいままでとは違う尊敬のまなこで見詰めてくるので、私もそれが気になって不自然な態度しかとれない。それより早く次回作という名の本当の処女作を書かなければと私は焦った。7/6

226)「待て待て、いまスイッチをひねっては危ないよ」と2回警告したにも関わらず、彼女がうっかりやってしまったために、町で評判の3人娘とその美貌の母親は、ガス爆発の哀れな犠牲になってしまったのだった。13/7/7

227)母親とちょっとしたいさかいを起こしたのが引き金になって、私はあろうことか家族全員を殺害してしまった。それから素知らぬ顔をして職場に着き、いつもどおりにビデオの編集作業をやっているのだった。13/7/9

228)戦争の真っ最中なのに、弾丸が飛び交う都会のど真ん中の田んぼに苗を植えているわたし。このままではヤバイのではないかとうろたえているのに、わが相棒は平然として植え直しを命ずるのだった。13/7/10

229)総務部のA君と打ち合わせを終え、私たちは永代橋の支店に向かったのだが、若くて壮健なA君の脚は早く、あっと言う間に姿が見えなくなった。懸命に跡を追っていると道はいつか巨大なダムになり、私がぬるぬるした壁にしがみつきながら下を見ると、A君の小さな後ろ姿が見えた。

230)私には樋口一葉に似た美貌で盲目の代書人がつねに張り付いていて、私が例えば「薔薇は薔薇薔薇である」とか「林檎は勇気凛々」とか「憂鬱の欝!」とか口走ると、素早く矢立てをとって短冊に墨書してくれるのである。

231)座席指定の寝台列車に誰かが寝ているので、「ここは私の席だよ」と注意したが、タヌキ寝入りをしてとぼけているので、私はそやつのそっ首を両手でつかんで座席の外に放り出したら、あっけなく死んでしまった。13/7/16

232)「箱根八里」を歌いながら、男たちはツキノワグマを解体していた。13/7/17

233)私たちはそのためにではなく、泊まるところがないのでその安ホテルの1室に入ったのだが、どういうわけか途中でそういうことをしてみようという感じになったのであるが、例によって私の精神的肉体的な都合で駄目になってしまって、誠に申し訳ないことだった。13/7/20

234)北欧のどこかの国を訪れていると、3人のそれぞれタイプの異なる少女が私に関心を持ったらしく、近づいてきて「寝よう」と誘うので寝ようとするのだが、私は不能の身ゆえに最後まで役割を果たすことができず、彼女たちは不満そうに離れてゆくのだった。13/7/23

235)それが愛する弟であると知りながら、私は馬に跨ったまま鋭利な鉄器を頭上に大きく振りかざし、気合いもろとも振り下ろし、後を見届けようともしないで駆け去った。ああ、いつかはやるだろうと思っていたことを私はやってしまった。終生忘れることのできない心の傷がそのあとに残った。13/7/24

236)突如戦争が勃発してしまったので、なんでもその場で即座に右か左かを裁く国際移動即席裁判官は、あちらこちらの前線のみならず、この海水浴場でひっぱりだこだった。

237)観光とは「光を観る旅」という意味だが、同文社の前田さんが引率するこのたびの旅行団には、私の家族や親戚も加わって、いつか見たどこか懐かしい場所、まだ見たこともない不思議な土地を次々に訪ねていた。13/7/29


なにゆえに憲法前文をあざわらうこの精神のみが世界に平和をもたらすものを 蝶人


夢は第2の人生である 第6回 [夢]

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西暦2013年水無月蝶人酔生夢死幾百夜


193)私は女性の勝気な部下のパワハラにあってろくろく自分が出せず、仕事が出来ないでいたのだが、幸い彼女が別のセクションの課長に抜擢されたのでようやく安堵することが出来たのだった。6/1

194)肝心の商品はろくろく写っておらず、しかもぐちゃぐちゃに汚れていたので大枚ウン百万円を投入した龍宝部長は怒り狂って「こんなタイアップ広告に金なんか払わない。電通に行って取り戻して来い」と叫んだ。

195)大和市のファミリーナ宮下に行って息子の入所準備をしている私。しかしテレビのケーブルをつなごうとしても駄目だし、ベッドを動かそうとしても駄目だ。ということはいまここに居る私は実体のない幽霊のような私ということだ。

196)昔の女が出てきて昔のように付き合おうとするのだが、昔と同じようなところでつっかえてすらすらと時間が経過してゆかない。ということは他の女よりも濃密な時間を体験しているわけだから、これは自分にとって大事な意味を持つ女なのだ、と考えてみたのだがどうも無理があるようだ。

197)打ち上げられたロケットに白い幅広スカートをつけたマリリン・モンローが乗っかっていて、そのスカートの下からカメラで覗くとなにやら奇妙な物が写っているようなので、スタッフ一同が眼を皿のようにしてアップして覗きこむのだが、やはりよく分からない。6/8

198)「こんな時間なのに支店に出張しても大丈夫かい。宿泊とか食事の手配は出来ているのかね」と親切に上司が心配してくれるのだが、私はそんな手配はまったくやっていないにもかかわらず、ともかく現地へ行けばなんとかなるだろうとたかを括っていた。6/10

199)若手の校正記者が「もし」という見出しを読みゴチでつけた。見出しだの下にキャプションも記事もなく、何枚かの写真があるだけなので、「おい、こんな訳の分からん見出しはやめろ」と怒鳴ったが、新米はどうして怒られたのか理解できずに不服そうだった。

200)アンカレッジ経由でパリに飛ぶ双発プロペラ機が墜落し、大勢の犠牲者が出たが、その中には当時の音楽や舞踏、スポーツ、芸能、服飾等の関係者が含まれていた。飛行機会社が営む盛大な葬儀の式中で私の眼を釘付けにしたのは、ある長身の黒衣の美女だった。

201)町内会が主催する後期高齢者対象の葬儀練習会を覗いてみたら、司会者の指示通りに各自が遺影や位牌やお骨を作法通りに並べてお経を唱えたりしていたが、それにも飽きた彼らが呑めや歌えやのドンチャン騒ぎをしている間に遺骨がひっくっり帰って、ごちゃ混ぜになってしまった。6/13

202)トライするチャンスはまだあと一回は残っているというのに、私は妙な自信と余裕からその最後の機会に試技しないで、腕組みをしながら他の競技者の様子を窺っているのだった。6/14

203)新宿の文化学園大学の研究室を訪れて知り合いのK教授と将棋をしていたら、どんどん負け将棋になり、私の王将は盤を逃れて北へ北へと逃げのび、気が付いたら北極海の氷の上で「詰めろ」をかけられていたのだった。

204)NYのJC社の担当者(彼女は東伏見の下宿のオバハンそっくりの容貌をしていた)が製品カタログの説明をえんえんと繰り返す。私は退屈し切って目の前でケラケラ笑い転げている2人のギャルと早く遊びに行きたいと願っているのだが、電話は一向に終わらない。

205)その非常にダサイ製品をキシンシノヤマは文句もいわずにビシバシ撮って、スタイリストは「それなりに見られるような写真が出来上がったとおっしゃっていましたよ」と請け合ってくれたが、それでも不安に駆られた私は、カメラマンの事務所兼スタジオがある六本木に向かった。
6/17

206)私は日本人で初めてのジバンシーのデザイナーになった。「今シーズンは色は変えるが基本的なスタイルは変えないでいこう」と主張したのだが、スタッフたち全員がブーと叫ぶのだった。

207)井上君も大道君もなぜか尻ごみして居なくなったために、独り残された私がラジオのDJ役を務めることになってしまった。しかし実際問題としてはどうしたらよいのだろう。私は途方に暮れてマイクロフォンの前に立っていた。6/19

208)おんぼろの我が家をゴミ収集に出そうとしているのだが、なかなかうまいかない。家全体に荒縄をかけ、そいつをごろんごろん引っ張りながら、いつものゴミ置き場までどうやって移動させればいいんだろうと、私はいたく悩んでいた。6/20

209)いよいよ開戦まであと4日に迫ったので、私は「それまでに家族と一緒に食事をする」、「東京を散歩する」、「遺書を書く」、「妻と心ゆくまで語り明かす」、という4つをやっておこうと思い、すぐに東京行きの電車に乗った。いわば見おさめである。6/21

210)都心に近づいたが灯火管制でここが新橋なのか銀座なのか良く分からない。ビルの谷間に莫迦田大学のアホ馬鹿学生が河童のように集まって奇声を上げているのを、涼しい顔をした藤原新という役者がチャリンコに乗って見物していた。6/21

211)一晩中だだッ広いスタジオの中で、若い裸の男がくねくねと踊っている。私が眠ってしまうと、男は踊るのをやめるのだが、ふと眼が覚めるとまた踊りだす。そんな調子でいつしか夜明けを迎えてしまった。6/22

212)戦争が近づいてきたので、政府は資源確保のために各家庭の高級貴金属類を徴収している。熱心な協力者には戸主の徴兵を免除するという特典がついているので、1日3回と決められた受付窓口は担当者の気を引こうと肌も露わな女たちで大混雑していた。6/23

213)お菓子の店を出さなければならない。売り場の中心はやはり人気実力ナンバーワンのA社にやらせるほかはないが、私はB社を応援したいのでA社のシルバー版を作ることを勧めていたらC社の可愛らしい女子がさかんに迫って来た。

214)いつでも抱こうと思えば抱ける状態になって、その小さく白い娘はすべてを私に委ねたようになって身を寄せてくるが、彼女に性欲をまったく感じられない私は、彼女をそんな無視するように冷たくあしらうほかはなかったが、そんな2人の姿を鋭く見ている男の姿があった。6/25

215)あまり美しくない、というかほとんど醜い顔をした中年の女が私の寝床に滑りこんできて、私の背中から両手を伸ばして胸や性器をもてあそぶのであるが、私は今膀胱が満杯で便所に行きたいと思っていたところだし、そもそも彼女と性交をする体力も気力もないのでなんとかこの苦難から逃げようと身をよじった。6/26

216)徴兵された人間は思いのほか少数で、兵士の大多数は甲種と乙種に別れている戦闘ロボットたちだった。前者はかなり日本語を理解するが後者はほとんど分からないので、私たちは往生した。こんな連中と一緒では戦争なんてできやしない。6/27

217)私たちが住む田舎町にやってきたプロデューサーが、私たち仲良し4人組のうちの誰かを映画に出してやるという。タクちゃんが選ばれそうだというので新しいシャツを買い込んだりしたが、結局最終的にはだれも選ばれず、プロデューサーは町を去った。6/29

218)大津波に追われた私たちが最後に逃げのびたのは、富士山の頂上だった。見渡す限り黄濁した海上に激しく雨が降り注ぎ、生き物の姿はなにも見えない。波立つ海水は足元にまでひたひたと押し寄せた。

219)ふと気がつくと大勢の人間をぎゅうぎゅう詰めに乗せた小さなボートがこちらに近づいてくる。まるでノアの箱舟のようだ。「おおい、2人ならまだ乗れるぞ」と船長が呼びかけたが、私は首を振った。水も食料もないボートに乗っても助かる見込みはない。6/30


なにゆえにこんなにあっさり開通したの町内総出で雪掻きしたから 蝶人


夢は第2の人生である 第5回 [夢]

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西暦2013年皐月蝶人蝶人酔生夢死幾百夜


147)集英社の編集者に採用された私は辣腕のヴェテランスタッフたちから軽侮されながら仕事を続けていたが、とうとう編集をクビになって書籍の荷造り係りに降格されてしまったが、なにくそ啄木だって朝日新聞の校正係で妻子を養っていたんだと流星群が降り注ぐ九段坂の夜空を見上げたのだった。5/1

148)破壊され尽くしたビルの中にはさまざまな機械部品のジャンクがいたるところに転がっていたので、私はそれらをひとつずつ廃墟の中から拾いあげ、時間をかけて超精巧な最新型の機械式時計に再生していると、真っ赤な夕焼けの空で烏がカアカアと鳴いた。

149)会社の社員旅行でほとんどの連中が昨日から出払っていたが、私はA子と一緒に朝から2人切りでやり残した仕事を片付けていると、夕方になってフジテレビのB子がやって来て私たちを意味ありげに見るのでそういう関係ではないよと力説しているところへ社員たちが帰って来た。

150)居間のテレビを見ていたら突然市川中車がやってきて「おお、おおお」とみずからの演技に酔いしれている。うるさくてかなわないのでいい加減にしてくれと注意しようとしたら、横合いから耕君がガツンと一発お見舞いしたので、中車はのびてしまった。13/5/4

151)小川町で都電を降りて坂道を登り、スタインウエイのショールームの前までやってくるともう息が切れた。見るとアポロンだかダビデだかの像を真似た素っ裸の男が、そこいらの会社の人間広告塔になって突っ立っている。13/5/5

152)人体が全体として突っ立っているだけではなくて男性の性器もひどく突っ立っているので、君きみ、そんなものを公衆の面前で見せものにすると猥褻物陳列罪でおまわりに捕まってしまうぞ、早く仕舞っておけと注意すると、

153)アポロン男はなぜかおねえ言葉になって、「いえねえあなた、あたしだってこんな恥ずかしいことやりたかあないんですよ。だけど社長からこんな恰好で朝から晩までずっと立ってろと命令されたものだから、仕方なくここに棒立ちになってるんですよ」と泣き言をいう。

154)「それにね、いちばん重いのがこの体の真ん中のやつ。こいつが勝手に立ち上がるもんだから、重くって重くって仕方がないの。ねえ、お客さん、あたしはこんなもんもう要らないからあなた持ってってくださらない。まだまだお役に立ちますよ」

155)そう言いながらアポロン男は「あそこ」を根元からポッキリともぎとって、いきなり私のカバンの中に放り込んだので、父の遺品のカバンはずっしりと重くなった。

156)それから私は大きなビルが立ち並ぶ学生街の中を歩いて行くと、見覚えのある大学の講堂でコンサートをやっていたが、バンドが演奏している音楽が詰まらなかったので、私はすぐに会場のホールを出た。

157)ふと右手を見ると、東京駅にあるような煉瓦でできた巨大な水の無い100mプールがあったが、もうずいぶん長く使われた形跡はなかった。左手にはやはり重厚な煉瓦で組まれた便所があったので、それを使おうとしたが高さ1mくらいの煉瓦の上に乗らないと用を足せないので、諦めて外に出た。

158)すでにとっぷりと暮れた黄昏の街を歩きだすと、狭い通路の左側のはるか谷底のような位置に大学の広い体育館があり、それに続いてぼんやりとしたあかりで照らしだされた教室があり、白髪の老教授の講義を聴いている数名の学生の姿があった。

159)さらに進んで行くとまた大きなホールがあり、そこでは韓国か北朝鮮かは分からないが朝鮮の人たちがなにかの記念式典を開催しているようだった。いつのまにやら会場に引っ張り込まれた私が演壇に目をやると、司会者の男性が朝鮮語、日本語、英語の順でなに説明していたが、なんのことやらさっぱり分からない。

160)しばらくしてから席を立って帰ろうとすると、出口にいたおばさんが、「はいお土産。お米2つと大根2本」と言いながら大きな荷物を私に押しつけたので一生懸命に断ったのだが、でっぷりと肥ったその女性はどうしても許してくれない。

161)仕方なく私は5キロの米袋2つとぶっとい練馬大根2本を左右にぶらさげて駅まで歩き始めたのだが、予期せぬ荷物は歩くほどにだんだん身に重くなっていった。

162)私はニコンのカメラを首からぶら下げていたが、季節はちょうど冬のはじめだったので、ウールの重いコートを一着に及んでいた。歩くうちに二組の米と大根セットはどんどん重みを増し、私のか弱い心臓は早鐘のように動悸を打った。

163)そのとき私は隣家の堤さんから頼まれた重い荷物をかかえながら駅まで急行した父が心筋梗塞に襲われ担ぎ込まれた病院で七〇歳で身罷ったことをはしなくも思い出し、土産より命が大事ということにようやく気付いた。

164)まずは荷物の半分を路上に残し、私は帰路を急いだが、面妖なことに歩けども歩けどもめざす駅に着かない。今にも倒れるのではないかと我が身を案じつつ全身汗まみれで私はようやく駅前に辿りついた。

165)そのとき私は、自分が、米も、大根も、カメラも、父の遺品のカバンさえどこかへ投げ捨て、ただ一本の長い棒だけをしっかりと握りしめていることにはじめて気付いた。良く見るとそれは「八重の桜」で黒木メイサが振りまわしていた長刀だった。13/5/5

166)ある日のこと、大工事が行われて奥深い地下になってしまったお茶の水駅の近くで昼飯を食おうとレストランを探したが、丸顔のイタリア人シェフが「ステーキランチは8500円」というので、他を探したがもうどこも営業をやっていない。

167)仕方がないので電車に乗ろうとしたが、ポケットの中には初乗り130円のチケットと50円玉しかない。しかもそのチケットはだいぶ以前のものなので、いま使えるものだか分からないし、50円ではどこにも行けないので私は途方に暮れた。

168)ライターの女性と私は京都のあるお寺へ向かった。取材は彼女にまかせて内部をぶらぶら歩いていると広く薄暗く猛烈に暑い部屋のあちこちで男女が立ったまま抱擁して呆然としている。私は一瞬歓喜仏ではないかと疑ったが、まぎれもなく生きた男と女のからみあいなのだ。

169)しかしよく見ると男あるいは女が一人で棒立ちになってその姿かたちが熱で溶解している姿もあった。いったいここはどういう部屋なのか。もしかすると彼らは即神仏の途上にあるのかもしれない。

170)おそるおそる広間から後退した私は、ライターと合流して寺男の案内で別の小さな寺院に向かった。ここは門が高いのでよじ登って入るしかない。寺には中年の艶めかしい女性とその娘がしゃがんで遊んでいる。

171)尿意に駆られたライターが慌てて便所を探したが、間に合わなかったとみえて少し離れたところでしゃがんで用を足すと、それが近くを流れている小川の流れに乗ってここまで流れてきた。

172)街が一斉に茶色になりキナ臭くなり、いよいよ蜂起の時がやって来たかに見受けられたが、わが統領は出口なおを気どってか屑拾いに身をやつし、みすぼらしい小屋に吊るしたハンモックに身を横たえながら、「まだだ、まだだ」と待機の姿勢を崩そうとはしなかった。

173)いよいよ戦争が始まるというのでパリから帰国した橋本画伯を尋ねようと私は小田急の新宿駅に向かったのだが、改札口に至る階段は国防軍の武器、弾薬、軍事物資の一時的な物置場と化しており、乗客たちはそれらの上を必死でよじ登りながら行き来しているのだった。

174)空襲警報が鳴りB29の大編隊が押し寄せてきた。ゼロ戦に乗った海軍上等兵の私は霞ヶ浦霞から飛び立ったが、エンジントラブルで離脱した。が、友軍機は体当たりを敢行し、敵2機を道ずれに自爆して海上に散華した。

175)私は彼女の夢を記したレポートを読みながら、どこが私の夢で、どこからが彼女の夢なのかをお互いに論じあっていたのだが、だんだん訳が分からなくなって、私はまた夢の世界へと戻っていったのだった。

176)その方形の躯体の内部では黒いマレー人の男性と白い中国人の女性の数多くの顔が光り輝きながらゆっくりと移動していて、その顔の中の眼が時折私をチラチラと見るのであった。

177)久しぶりに白水社のフランス語教科書を開いてみると、最初の頁にはダで終わる単語がたくさん並んでいたので、私は少しく奇異に感じたが、ナンダ、オランダ、ミランダなどとおずおず発音していった。

178)課の全員が、部屋のあちらこちらにある封筒に貼られた未使用の切手を探して回ったが、なかなか見つからない。この切手がないと故障した課のパソコンを修理に出すことができないので、私たちは朝から晩まで夢中になって探し回った。

179)私が作った講義テキストを見ながら2人の学生が、「こんな内容なら簡単に単位が取れちゃうわね」とほざいていたので、私が「いやいや君たちが思っているほど甘くはないよ、チチチ」と呟いたら、彼らは怪訝そうに私を見た。

180)私はヤナイ氏というライターのいる小さな雑誌社にあこがれていたのだが、なんとか見習いとしてそこに潜り込むことができた。その夜はチャーリー・パーカーの公演があり、舞台に向かって左側の座席は満員だったが、右側はかなりの空席があった。ヤナイ氏が右に移動してもいいぞというので私たちはそうした。

181)開演の時間が迫ってくると、私たちのすぐ傍をチャーリー・パーカーとその仲間たちがぞろぞろと通り過ぎ、そのまま舞台に登って演奏が始まった。

182)「そうですか。ここは私に任せてください」、というと、イチロー選手は見えない標的に狙い定め、鋭いスイングでバットを一撃すると、爆弾の入った大きなボールは見事敵陣のど真ん中に命中したのだった。13/5/20

183)私の家は水屋で、お向かいの店も同業だったが、私の家と違って向かいの店主は店員たちに絶対に水を飲ませない。「これは大事な商品やさかい、おまえたちにガブガブ呑まれたらわやや」とか言って夏の盛りにも呑ませないので大勢の店員がどんどん倒れていた。5/22

184)いよいよ4人乗りのF1レースが始まった。私の車には水屋の娘をはじめシビル・シェパードなど細身の美女たちが乗ったが、ライヴァルの車には石ちゃんやデブで醜い伊集院なんとかたちがどかどか乗り組んでいたので、レースは私たちの圧勝だった。

185)海を渡ってライヴァル会社との交渉に臨もうとした私たちは、その夜ライヴァル社が枕元に送り込んで来た2人の特別慰安婦の魅力に負けてしまったために、翌朝から始まった熾烈な遣り取りに太刀打ちできず一敗地に塗れてしまった。5/23

186)上司のところに派遣されたのは正真正銘の女性だったそうだが、私の部屋に忍んできたのは女を装った美貌の男性だった。けれどもそいつが男であることは私にはなかなか分からず、あっ、こいつは男じゃない女だ、と思ったときにはもうなにもかもが遅すぎたのだった。

187)水野社長がなぜか裸踊りをはじめると、部下たちは最初はあっけにとられて呆然と見詰めていたが、やがて自分たちもワイシャツを脱ぎ、ネクタイを取り去ってやけくそのようにラアラア歌いながら「えんやとっと踊り」をはじめた。5/24

188)ヨーロッパの田舎町で、齢老いたピアニストが亡くなった。彼は世界中に名が売れた実力のある演奏家であったが、自分の生家で死を迎えようと戻った翌日にベートーヴェンの協奏曲第4番の出だしを弾きながら静かに息絶えた。5/25

189)ロンドンのトラファルガー広場のような広場で、親子が見せものを見物しているが、実際は彼ら自身が見せものになっていて、そこではシャツ1枚で冬の極寒にどこまで耐えられるかの実験が行われているのだった。5/26

190)夢の中で夢の記憶装置箱が2個転がっていたので再生してみると、だいたいは私の記憶通りなのだが、ところどころ食い違っていたり抜け落ちていたりしているので、夢の記憶そのものと2つの記憶箱の内容のどれが正しいのか、夢の中で私は迷っているのだった。5/27

191)私は宝くじの1等賞を引き当てたらしい。金額は正章が1億円で副賞の2500万円がおまけにつくのだという。しかし宝くじなんか最近は買ったこともなかったのに、いったいどうして当選したのだろうと私は怪しんだ。13/5/29

192)最近どうも人気がいまいちだということで、東洋人の私がなぜだかジバンシーのクリエイティブ・ディレクターに選ばれてしまった。自分ながらに考えて昨シーズンとは色柄デザインを変えつつブランド独自のテーストはいじらなかったのだが、スタッフはどうも不満のようだ。5/30


なにゆえに障がい者と偽るのか悪知恵の働く健常者のくせに 蝶人



夢は第2の人生である 第4回 [夢]

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西暦2013年卯月蝶人酔生夢死幾百夜

112)私は岡井隆ゼミに出ている学生なのだが、前回は風邪で欠席したので今日の内容が全然わからない。先生がもう一人の女子学生に動詞の活用や終止形について親切に教えている姿を、私は妬ましく見詰めていた。

113)私が生まれて初めて撮った映画「福島原爆」は、青空に放り投げられた無数の魚たちの骨がレントゲン写真のように透けるシーンから始まる。1945年3月11日、米軍のB29特別爆撃機は、東京に投下するはずの原爆を誤ってこの地に投下したのだった。

114)当然現地ではその後の広島・長崎と同様の凄まじい惨禍をもたらしたが、幸か不幸かそこは無人の海岸だったので、当事者である米軍と日本軍、近くに住む一握りの人々を除いて広く知られるところにはならなかった。

115)それは恐らく日米両政府の陰謀によるもので、彼らはこの大事件を知る者がいないことを利用して長い年月に亘って秘密を隠ぺいしていたが、はからずもこのたびの震災による放射能流失で恐るべき実態が明るみに出されたのだった。

116)大学1年生の私が文学部へ行こうとすると、法学部の2人の学生が「そっちじゃない、こっちだ」と無理矢理別の路へ連れてゆこうとする。しばらく成り行きにまかせていた私だったが腹に据えかねてそのうちの強引な一人を押し倒し、ボコボコにしてやるとそいつは動かなくなってしまった。

117)私たちはさまざまな外界の現実音を採録してから、このスタジオに集まった。お互いにその音をダビングしあって新しい電子音楽を創造しようと試みているのだが、A子だけはなかなかその複写を許そうとしなかった。

118)夢の中でやっと会えたというのに、A子ときたら昔とおんなじことをいうのだ。ダメダメ、でも奥さんと別れる気があるなら私に触れてもいいわ。

119)広報課長と部下の女性が、その企業の重要な記者発表をどちらが行うのかで微妙な駆け引きを演じていた。実力と自信のある女性は自分ですべてを担当したいのだが、無能な管理職がそれを阻止しようと、しきりにいやがらせをするのだ。

120)ラスカルという名のロシア男は、自分は音楽と体操のたいそうな名人であると吹聴しながら、私を小馬鹿にするように見詰めた。

121)知り合いの女性が企画したダンテの「神曲」の煉獄観光ツアーが好評だというので、私も参加させてもらった。原作を(もちろん翻訳で)読んだ時にはじつに退屈な脅迫による宣教本に過ぎないと思って馬鹿にしたものだが、実際に現地を訪れると大迫力で興奮した。

122)流行の最先端をゆくこのデザイン事務所であろうことかシラミが大繁殖。あれやこれやの方法で駆除しようと試みたがどうしても出来なかったので、スタッフ全員が地下の暗渠に投げ込まれ、東京湾の藻屑と消えた。

123)その囚人が不敬な言葉を吐きだす度に、その巨人は自分の目や耳にガムテープを張って見ざる聞かざるを決め込むのだが、それは怒りに駆られた彼が、囚人をひねり殺してしまわないためだった。

124)我ながらいい短歌が出来たと思ったので、毎日新聞に投稿しようと思った。けれども私は毎日は取っていない。急いで近くのミニストップに行ってみると、ほとんどがスポーツ新聞で、私の大嫌いな産経と読売はあったが毎日も東京もなかった。

125)私の狭い家の中にはなぜだか広告代理店の人間がいっぱい押しかけてくるので、いつも牛ぎゅう詰めになっている。その大半が私の知らない顔だが、電通の長谷川という男は良く知っていて、いつでも挨拶を交わす仲なのだが、その長谷川がときどき白い犬に変身してしまうので困る。

126)東北から北海道を制覇するんだということになり、おじに率いられてわたしも新幹線に乗り込んだのだが、途中で検札に引っかかった。切符をおじに預けていた私は途中の駅でつまみだされ全員集合に間に合わなかったのだが、それはおじの陰謀だったのかもしれない。

127)ようやく青森につくと私はおじの運転するロールスロイスに乗せられた。おじは大通りで車を止めると交差点の向こうにそびえる教会堂に向かって巨大な鏑矢を射るとそれはひゅるひゅると音を立てながら飛んでいき、鐘楼に突き刺さった。

128)砂漠の族長が私たちに与えたのは、真っ白い包帯でグルグル巻きにされた2つの物体だった。その包帯を時間をかけて解いていくとひとつからは人間の姿かたちをしたきらめく黄金、もうひとつからはいままで映画の中でも見たことが無いようなイスラム風の絶世の美女が姿を現した。

129)演奏会の度に「私たちを警察にもしかして殺人犯ではないかと報知してほしい。そうすれば3人とも無罪であることが明明白白になるから」と聴衆に告げているのだが、誰もそうしようとはあいないので、私たちの心は晴れないのだった。

130)おととい髪も髭もぼうぼうぼうできたない乞食のような中年男がヴェネチアの運河のほとりをほっつき歩いていた。ところがまさにその男が、今朝のミラノでのMTGにトム・フォードのスーツを一着におよんでにこやかに私の右手を握ったので驚いた。

131)広場には大勢の人たちが集まっていたが彼らの表情には不安の色が浮かんでいた。そこで一計を案じた私は仲間のドイツ人たちと一緒に広場に乗りこんで彼らを落ち着かせようとした。身軽なドイツ人の若者は音楽に合わせてマイケル・ジャクソンを凌駕する完璧な幽体移動の必殺技を繰りだすと次第に暗欝な雰囲気が崩れて笑顔が戻って来た。

132)そこではいままさにアジア、いな世界最大の万博が開催されており、広大な会場には自然館と商品館の2つの球形のパビリオンが並んでいた。自然館はそのまま地球の7つの大陸がそっくり内蔵されており、商品間で買い物をした大勢の客たちはレジを終えるまでに数時間も待たされていた。

133)久しぶりに細君と旅行に出かけたが同じ車両の中に彼女に会わせたくない女性が2人も乗り合わせていることが分かったので、私はもはや旅行気分どころか戦々恐々として目を泳がせているのだった。

134)会社の図書室に配属された私がその狭い部屋に行くと、山口君の姿が見えない。きょろきょろ探していると、彼と事務の女性の2人が狭い部屋に山積みされた雑誌類の上に机を置いて執務していた。「ここは図書室なのだろう。誰か借りに来るのかい」と尋ねたが誰も一度も来ないという。

135)国家教育局に続いて国家映画局の統制がはじまった。どんな映画も1940年代よりもハンパなく検閲されている。本編のみならず予告編や広告の映像やキャッチフレーズについても官憲の気狂いじみたきびしい統制が繰り返されるので、私は映画界から逃走することにした。

136)客の要望に応えてクラシック音楽を流している純喫茶を訪ね、私はフルトヴェングラーが指揮する「トリスタンとイゾルデ」をリクエストするのだが、どの店に行っても第3幕第3場でイゾルデが歌う「愛の死」の箇所のレコードが無い。もうすぐ朝がやってくるので私は焦った。

137)中国本土を侵略中の皇軍兵士を慰安すべく、私たちはサーカスのキャラバンを組んであちこちを巡業していた。そのとき突然敵が来襲し、銃弾が飛んできた。私はとっさに私がひそかに好いている女性のほうを見ると、彼女は巧みな宙返りで敵弾を避けていた。

138)そろそろ死期が近づいてきたことが分かったので、私はそのためにあらかじめ準備していた眺めの良い場所にやってきた。ところが緊急時に使用するための人工臓器が無くなっているので、きょろきょろ周囲を見回すと悪戯そうな若い女と目が合った。

139)電車から降りて無人の改札口を出たところで、前を行く白いチョゴリを着た若い女が幼女と共に道端の渓流に飛び込むのを目撃した。私は一瞬躊躇したがザブリと川に飛び込み、まず少女を救い、次いでぐったりとなった女を胸に抱いて水から引きあげた。

140)蒼白の女は、眉が細く美しい容貌をしていた。私が「しっかりせよ」と声を掛けても目を開かず、一言も発しないので盲目かつ聾であることが分かった。娘とも妹ともおぼしき少女の泣き声だけが白昼の荒野に響いていた。

141)「ほら、ほら、ほら」と言いながらみんなは吉田君からもらった異様に大きな林檎を私に見せつけた。きっと私の分は無いのだろう。悲しい気持ちに沈む私の傍を、思いがけず昔の思い人が通り過ぎていった。なにも言わないで。

142)私の両側には2人の女が横たわっていた。これって前に読んだ村上春樹の小説とおなじシチュエーションだなあと思ったのだがそれ以上なにも起こらず、朝になると誰もいなかった。

143)追い詰められた私たちは階段を登ろうとしたが、その階段は途中で終わっていたので、階段のたもとまで下って階段の左の脇道を進もうとしたのだが、そこでにっちもさっちもいかなくなってしまった。私の顔の前に彼女の顔があったので、金曜日の朝、渡辺派がいよいよ私を粛清しようとしている気配を察知した私は、大聖堂めざして急な坂道を駆けのぼった。

144)無人の大聖堂をいっさんに駆け抜け、私はその裏道を急いだが、どうも誰かが私の跡をつけているようだ。真っ暗な小道をひた走りに走ると、いつのまにか異人街に辿りついた。教会では大柄な人々がクリスマス・キャロルを歌っている。

145)明日は大学試験の初日だというのに僕たちは夜遅くまで夢中になって話しこんでいた。色々な地方からやって来た受験生の中には女性体験の豊富な若者もいて、僕らは目を輝かせていつまでも彼のレポートに耳を傾けたのだった。

146)市役所の広報課長はわけがわからぬ男だった。市に有利な情報だけをマスコミに流そうとして経済、社会、健康、人口、衛生、文化、教育などにかんするありとあらゆるデータのおのれに有利な部分だけを取り出して、それをごった煮にして公表するのだった。4/30


   なにゆえに「おもてなし」でなく「オ・モ・テ・ナ・シ」でにっこり笑って合掌するのか 蝶人



夢は第2の人生である 第3回 [夢]

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西暦2013年睦月蝶人酔生夢死幾百夜


70)中国の戦地で孤立した私たちは、手榴弾を投げ尽くしてしまった。しかたなく地の果てまで逃亡すると雪が激しく降って来た。その場にうずくまって雪がやむのをまったが、しばらくして私はとうとう梶上等兵になった。

71)さっきまで見ていた夢を全部思い出すんだ、吐き出すんだ、とどこかで誰かが怒鳴っていたので、私は目が覚めた。

72)いつかどこかで行ったことがある懐かしい場所。その遠い思い出の場所に限りなく近づきながらも、私はそこにたどり着くことができないのだった。

73)おいらはあいつが憎らしくて殺したんだけれど、牢屋に入ったら国はロシアン・ルーレットでおいらたちを殺すんだ。たまったもんじゃあないぜ。と死刑囚の私は呟いた。

74)返品してくれよ、こんな欠陥商品を作りやがって。しかも修理したのにまた故障しやがって、なにが日本を代表する世界のトップ・メーカーだ。社長を出せ、社長を!

75)いくたびも、またいくたびも快楽の絶頂に達した吉行和子と藤竜也の絶叫で、わたしは朝まで寝られなかった。

76)私たちはしばらく東シナ海をさまよっていたが、やがて同乗していた2人の若者は言葉も上手になったので大陸に残り、私は母国に帰還することにした。

77)私が乗り組んでいる潜水艦の艦長はちょっと変わった人物で、いつもなにやらブツブツ繰り返し言っている。注意して耳を傾けると、「大好きだお、真理ちゃん」と呟いているのだった。

78)訓練の時にも「敵艦見ゆ、大好きだおお、真理ちゃん」、「魚雷発射、大好きだお、お真理ちゃん」と号令をかけるので部下から馬鹿にされながらも愛されていた。

79)艦長は水兵は体を鍛えておかねばならぬという信念のもと、狭い艦内を陸上競技場にみたて、私たちを全力で疾走させるのだった。

80)さてその日は母港の地元民を艦に招待する日だったが、艦長はいきなり若くてきれいな女性の手をつかんで艦内に連れ込み、みずからあちこち案内して回った。

81)艦長は魚雷の格納庫の傍に彼女を引っ張り込んで、「ほらほら、これが水雷だ。こいつで敵さんのどてツぱらに風穴を開けるのだ」と言いながら、いきなりチュウしてしまった。

82)もうこれで何年になるのだろう。私は教団の責任者として毎日新幹線で東京と大阪を往復しているのだが、精も根も尽き果てた。「教祖」などとあがめられ、奉られても、その実態は1個のでくのぼうに過ぎなかったのである。

83)学校の卒業旅行は英国風のグランクルーズだったが、中東だかアフリカあたりで私は集団から脱落してしまった。ここはいったいどこなんだ。チュニジア?それともアルジェリア? 見たこともない風景が広がり、やたら暑い。

84)暑い砂の上に横たわっていると、奇妙な形をしたこれまでに見たこともない大中小のリスがやってきて食べ残しのパンをむさぼり食っている。と、その時黄色い巨大なそして異様に美しい網目ニシキヘビが、リスたちの背後でとぐろを巻いた。

85)私はある地方都市で市の広報誌の編集をまかされていたが、その仕事をロスの私立探偵フィリップ・マーロウの捜査と意識的に勘違いし紫のキャデラックに乗っていたのでさまざまなトラブルを引き起こすことになった。

86)私が下宿していたのはちょっと色っぽい元美人の姥名桜だったが、これが事あるごとに私に首を突っ込んでくるのだった。

87)ローマの皇帝がその教戒師である私にこう語った。6人の男女をとらまえて「3人の男は明日ライオンと闘え」と命じると、その前夜までには3つのカップルが誕生している、と。私が王国から略奪した3つの玉手箱は、セピア色に塗り替えられた。
私はジェットコースターの先頭に第一の玉手箱を置いてこれに跨り、「さあ発車するのだ」と号令をかけたが、玉手箱には車輪がないことと、私の2人の美貌の部下が、第2、第3の玉手箱に無事に跨っているかどうかを終始気に掛けていた。

88)しかし幸いなことにその不安は杞憂であった。私は安心してジェットコースターの突進に身を任せていたが、それがあまりにも天空高く登りすぎたためか、突如玉手箱もろとも地上めがけて真っ逆さまに転落した。
そして猛烈なスピードで地表に激突するまさにその瞬間に、私はもはや玉手箱の中身になんの関心もなく、2人の美少女にも全く欲望を覚えないことがわかった。

89)私は神保町の金ペン堂主人の薫陶を受け、長年の研鑽の末にずば抜けた性能を誇る万年筆を1本2千円で製造することに成功した。それから私は腐女子2名の支援よろしくこれを1本2万円でネット販売したので、ほんのいっときだけは大儲けしたのだった。

90)私は、喉の奥に生えているジャックの豆の木にぶらさがりながら、どこまでも、どこまでも降りていった。

91)26歳の美人秘書付きのオフィスを無料で貸してあげるけど、使いませんか?とある親切な方が申し出てくださったので、私は大川のほうに向かった。オフィスの近くに見慣れない2人の男が待ち受けてして、私を無理矢理銀座に連れて行こうとする。

92)仕方なくいいなりに成って見知らぬバアに入り、飲めないジャックダニエルを一口だけ舐めていたが、トイレに行く振りをしてうまく脱出することに成功した。

93)銀座の地下はものすごく深いところに地下鉄を含めた何層もの広大な地下通路が走っていて、それが大川の向こうまで走っていることを私は初めて知った。恐らく東京の地下には地上を上回る交通網がすでに敷かれているのだろう。

94)やっとこさっとこ前のオフィスに入っていくと、26歳の美人秘書の代わりに62歳くらいのおばさんが一人ぽつねんと座っていた。

95)私の嫁入り先は古い封建的な約束事が根強く息づいている地方だった。はじめは大人しくしていた私だったが、歳月の経過とともにだんだん本領を発揮して、ある日思い切って謎めいた埃だらけの部屋を開けた。

96)まるで江戸時代のような畳の奥座敷には虫に食われた帳簿が何冊も並べられていて、数人の男が会計の実務に従事していた。彼らは私を見ると驚いたが、帳簿を見た私がたちまちこの家の危機的な収支状況を把握したのを知ると、驚きをさらに新たにしたようだった。

97)第2の部屋、第3の部屋と次々に私が秘密の部屋を開けはなっていくと、誰かの注進でそれを聴きつけた夫が、まるで青髭公よろしく目を大きく見開いた。

98)眉目秀麗な彼は、若者を代表して「風次郎」役に選ばれた。この共同体のトップモードをさし示すという重要かつ誇らしい役目だ。

99)私は彼の補佐役をおおせつかり、丘の頂上に据え付けられたインカ帝国の祭壇のような席に座ると、古代の共同体の家や畑がアリのように小さく見渡せた。

100)全身紫ずくめの奇妙な恰好をした「風次郎」はすっくと立ち上がり、「これが俺たちの新しい制服だあ!」と叫ぶと、しばらくしてその声はこだまになって帰ってきた。

101)絢爛豪華な着物の裾から手を入れて豊かな乳房を鷲づかみすると、彼女は厳しい目で私を睨みつけたが、かといって自分から逃れようとはしないのだった。

102)まだ春だというのに夏型の大きなヒョウモンチョウが原っぱでゆらゆら動いている。この品種らしからぬ緩慢な動きだ。しかも巨大なヒョウモンの翅の上に別の種類の小型のヒョウモンチョウが乗っている。

103)私がなんなくその2匹のヒョウモンチョウを両手でつかまえ、これはもしかして2つとも本邦初の新種ではないかと胸を躍らせていると、半ズボン姿の健君も別の個体を捕まえてうれしそうに私に見せにきた。

104)それは確かにヒョウモンチョウの仲間には違いないが、いままでに見たこともない黄金色に輝いており、国蝶のオオムラサキを遥かに凌駕するほどの大きさに興奮はいやがうえにも高まるのだった。

105)私たちはバタバタと翅を動かしてあばれる巨大な蝶を懸命に両手で押さえつけていたのだが、それはみるみるうちにさらに大きな昆虫へと成長したので、もはや彼らを解放してやるほかはなかった。

106)しかし巨大蝶は逃げようとせず、その長い触角をゆらゆらと動かし、「さあ私のこの柔らかな胴体の上にまたがってみよ」、とでも言うようにその黒い瞳で私たち親子をじっと見詰めたので、まず半ズボン姿の健ちゃんがひらりと巨大蝶の巨大な胴体の上にまたがった。

107)息子に負けじと私も別の巨大蝶にまたがり、そのずんぐりとした黒い胴体をつかんでみると、あにはからんやそれはくろがねのような強度を持っていた。

108)私たちがそれぞれの大きなヒョウモンチョウに騎乗したことを確かめると、2匹の巨大な蝶はゆっくりと西本町の子供広場から離陸し、狭い盆地を一周すると、はるか地上の片隅に見慣れた故郷の街や家や寺山、銀色に輝く由良川の流れが見えた。

109)それから巨大な蝶は猛烈なスピードで故郷の街を遠ざかり、波がさかまく海をわたり、大空の高みを力強く飛翔しながら成層圏に達し、そこからまた猛烈なスピードで下降した。

110)ぐんぐん地表がちかづいたので、よく見るとそれは教科書の写真で見たことのある万里の長城だった。気がつくと巨大蝶の姿は消え、私たち二人だけが大空の真ん中にぽっかりうかんでいる。私たちは思わず手と手を握り合った。

111)しかし墜落はしない。無事に飛行は続いている。私たちはそのまま元来た空路をたどって故郷に帰還すると、そこには仲間の巨大蝶が勢ぞろいしていた。その後蝶たちは、住民の飛行機としての役目を半年間にわたってつとめたのちに、南に帰っていった。


    なにゆえにかくまで美味なるや藤沢爽風舎がつくる安価な食パン 蝶人

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