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チェーホフの「三人姉妹」を読んで観る [読書]

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照る日曇る日第794回


 読んだのは昭和二五年に岩波文庫から出た湯浅芳子の翻訳、視聴したのはケラリーノ・サンドロヴィッチ演出のシスカンパニー製作のものをNHKが中継録画したものでしたが、いずれも期待を上回るようなものではありませんでした。

 私は何を隠そう湯浅芳子の人とその翻訳は好きなのですが、いかにも用字用語が古すぎてこればっかりはどうしようもない。それにこの芝居には仏蘭西語やラテン語なども出てくるのですが、フランス語はともかくラテン語などどこまで正確なのか、読んでいても甚だ心もとない。

 話の内容もだいたい知っていたのですが、三人姉妹がやたらモスクワへ戻りたいとか、生きていることの意味が知りたいとか、軍人が自分たちが消えてなくなっても次代の人間に資することができればそれでいいとか、わりとセンチメンタルなセリフを連発するのが気になります。

 ふと思うのですが、トルストイがベートーヴェン、ドストエフスキーはマーラーだとしたら、チェーホフはさしずめショパンかしら。人世観の基調に短調の抒情と詠嘆が疾走しています。

 さてお芝居の方ですが、長女オリガに余貴美子、次女マーシャに宮沢りえ、三女イリーナに蒼井優、男優に堤真一、段田安則などを取りそろえているにもかかわらず、蜷川演出と違って役者、特に堤真一は勝手に台詞を喋っているだけ。

 オーソドックスな演出といえばそうなのだろうけれど、子細に点検してみると一幕の終りでは台詞の順序を勝手に入れ替えているし、台本で「静かに笑う」と指定されている個所は、宮沢りえなどみな大声で莫迦笑いしている。

 ケラリーノ・サンドロヴィッチは「鬼才」だそうですが、全4幕をつらつら見物してもどこが鬼才なのかさっぱり分からない。これでは一昔前の新劇の舞台のほうがよほど完成度も感銘の度も高かったといわざるを得ません。
  

 それに彼自身が台本を用意したというのですが、まさか自分でロシア語から翻訳した訳でもないだろうし、いったい誰の翻訳に依拠しているのか。もしかすると著作権を無視してあれこれの脚本を自由に引用して「創作」しているのかもしれません。

 とまあさんざん悪口を書いてしまいましたが、私はこの演出家の演出ではなく、1980年代の「有頂天のケラ」時代の音楽活動を「鬼才」どころか「天才」の名に値すると今でも思っております。

 こんな下らない演劇から1日も早く足を洗って、狂気と笑いの怒涛のライヴ活動に復帰してほしいものです。



 へらへらとマルクス兄弟になりきって歌ってる君は有頂天のケラ 蝶人

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