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中公偽決定版「谷崎潤一郎全集第11巻」を読んで [読書]

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照る日曇る日第831回

 大正14年に新潮社から出版された「神と人との間」と、同年に改造社から刊行された「痴人の愛」などを収めている。

 前者は、谷崎を思わせる「悪魔主義」の作家と元医師の主人公が、美女を巡って猛烈な争奪戦を展開し、作家を毒殺して念願のマドンナを射とめたものの、良心の呵責に耐えかねて自殺して果てるという話であるが、全体として強引に作りものを作っている不自然さが漂っていて、芳しい出来栄えとは言いかねる。

 これに対して後者は、文字通りの傑作である。谷崎自身は「私小説」と称しているそうだが、おそらく主人公が妻千代の妹をモデルにした実体験を基に小説に仕立てたものだろう。

 肉体美を誇る自由奔放な若い美女に身も心も惚れぬき、すべてを捧げてひれ伏すという女人礼賛耽美の自虐小説であるが、魅惑の対象への没入と、それを舌なめずりしながら描写する快楽とが一体となって、猛烈な熱気と愛欲のエネルギーの放射が、読む者を圧倒せずにはおかない。

 はじめは「こんな女に夢中になって入れ上げるなんて莫迦莫迦しい」と冷笑していた読者も、いつの間にか男を夢中にさせる悪魔のような女の魅力にとりつかれ、主人公ともどもその足元にひれ伏したい、という被虐の洗礼を浴びずにはいられないだろう。谷崎、恐るべし!


外出の時は新しい肌着を身につけるいつどこで何があるか分からないので 蝶人

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